日本で初めて標準物質を製造したのは1929年に開発に着手した八幡製鉄所とされている。試薬では、現在の大阪工業技術研究所が1931年に製造、頒布した。世界的には、標準物質の重要性を理解し、いち早く製造・供給し始めたのは米国のNBS(National
Bureau of Standard)、現在のNISTである。NBSは1906年には標準物質を供給し始め、その後、世界各国に輸出してきた。我が国もこれを利用してきたが、外国の税金で開発した標準物質に依頼し過ぎると、技術ただ乗り論で国際摩擦が生じかねない問題がある。最近、我が国でも標準物質の開発の重要性が認識されてきていて、1973年8月に計量行政審議会は「公害計測の信頼性を確保するために、化学標準物質の国家標準を早急に確立して、その供給体制の整備および検査制度の確立を図ることが必要である」と述べ、その後、標準ガスと標準液の開発ならびに供給体系の整備が行われた。1993年には新計量法が施行され、計量法トレーサビリティ制度により標準液30品目と標準ガス10品目がロゴマーク(JCSS)をつけて供給される事になった。この供給体系では物質工学工業技術研究所(以下物質研)が原料物質の純度決定を行い、製品技術評価センター(以下評価セ)が維持・管理を担当し、化学品検査協会(以下化検協)が指定校正機関として供給を担当しており、三所が一体となって標準物質を供給している。現在、三所は表1に示したように今後の4年間でJCSS標準物質80品目を増加させるプロジェクトを遂行している。このプロジェクトにより有機標準液がはじめて供給されるようになる。
以下に、物質研における標準研究の概要を紹介する。